絶品。これは、小説を読む楽しさを堪能させてくれる。こういう本に出会うと、読書の楽しさに圧倒される。
舞台は南米の閉鎖的な田舎町。サンティアゴ・ナサールという男が殺された事件を軸に、住民たちの行動や感情が複雑に展開されていく。
充分すぎる犯罪予告もあった。しかも、住民は、それを防ごうと思っていた。加害者も、誰かに殺人を止めてほしいと思っていたような節があった。しかし、事件は起こった。衆人環視の中で。
なぜ殺人事件は起こったのか?誰が原因で?真実はどこに?そんな数々の疑問や不安の前に、しかと存在するのが「死」。それは、ちょっと幻想的でさえある。美しささえ感じる、この奇妙な殺人事件。
この小説を読むと、私たちがよく口にする「運命」という言葉は、実は意志や思惑、感情の上に成り立つ「必然」なのだということに気付く。身の上に起こった事実を、運命と位置付けるのは、ある種客観視することだ。そうすることで、自分自身の意志や責任は、確かな重さを失う。 それは、ロマンティックな感傷さえ伴うから、さらに厄介。
しかも、集団になると、その傾向はさらに増す。サンティアゴ・ナサールが殺されたのは、旧体質の共同体が招いた悲劇であろう。人々の嫉妬や憎悪、差別感情、他者依存が、殺人事件を引き起こした。集団のもつ恐ろしさを如実に感じる。
また、物語を組み立てる、まったく隙のない構成力も、この小説の凄まじい点。今さら私が言及する必要もないが、時間や場所を自由自在に行き来する、マルケスの視点は感動的でさえある。 巧みに重ねられる事件の表層は、もはや魔術。現実と夢と運命と必然とリアリズムと虚構とが絡み合い、恐ろしい事実が浮かび上がる様は、不謹慎ながらも美しい。とにかく、この奇妙で複雑な白昼夢を多くの人に楽しんでほしい。
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