2014年3月30日日曜日

内田百閒 『冥途・旅順入城式』

何も用事はないけれど思いつくままに汽車に乗って大阪にいってみたり、飼い猫がいなくなったといっては毎日メソメソ涙にくれ、蓋の上に寝ていた姿を思い出すからとの理由で風呂にも入れなくなったり、好きな食べ物があれば1ヶ月ほども同じものを食べ続けたりと、内田百閒はそんなかわいらしい作家だ。

「阿房列車」「ノラや」「御馳走帖」など、随筆に人気作が多いが、この「冥途・旅順入城式」は、それらとは違って幻想的・怪奇的な世界を織りなす短編集。不気味な一冊だ。

いくつかの短編で成り立つ「冥土」は、そのほとんどが正体不明な何かに誘われ、あとをついていくうちに不安を覚え、説明不可能な世界に漂うというものだ。川べりであったり夕闇であったり曲がり角であったり、一歩足を進めると、その行方には条理が通じない世界が待っている。恐ろしげでありながら、なぜかその迷い込む様は奇妙におかしい。あらがえない不気味さを、どこか俯瞰的な視点で突き放すように捉えているからだろうか。

短編の中でも、特に人気が高いと言われているのが「件」。人の顔をした牛に変身してしまった男が、突然放り込まれた不安の世界。オチも秀逸(ユーモラス!)で、この短編集の魅力を代表する作品の一つに思う。

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